術後に気をつけたい「椅子の選び方」
大腿骨近位部骨折の術後、とくに後方アプローチで人工骨頭置換術を受けた方は、脱臼のリスクを伴う姿勢に注意する必要があります。日常生活の中で見落とされがちなのが、「椅子の高さや形状」です。
とくに座面の低い椅子や柔らかすぎるソファは、脱臼を引き起こすリスクが高まるため、注意が必要です。
なぜ椅子の高さが脱臼に関係するのか?
後方アプローチでは、術中に股関節の後方組織を切離するため、術後は・・・
「 股関節を深く曲げる(屈曲) 」
「 脚を内側にひねる(内旋) 」
「 脚を内側に寄せる(内転) 」
という動作が脱臼の引き金となります。
座面が低い椅子では、立ち上がりや座る際に股関節が深く屈曲するため、後方脱臼のリスクが高まります。特に、足を後ろに引いたり、片足で体をひねるような動作が合わさると危険性はさらに増します。
❌ 避けるべき椅子の特徴(脱臼リスクが高い)
以下のような椅子は、術後しばらくの間は使用を控えることをおすすめします:
- 座面が極端に低い椅子(35cm以下)
- 柔らかく沈み込むソファや座椅子
- 背もたれがなく、姿勢が安定しない椅子
- キャスター付きで動いてしまう椅子
- 足を後ろに引いて立ち上がる構造の椅子
これらの椅子では、脱臼肢位(特に深い屈曲+内旋)に入りやすくなります。患者さん自身が注意していても、無意識に危険な動作を取りやすくなるため、環境の工夫が必要です。
〇 おすすめの椅子の条件とは?
反対に、安全に使用できる椅子の条件は以下のとおりです。
- 座面の高さが40〜45cm以上で、膝よりやや高い位置にある
- 固めの座面で深く沈み込まない
- 背もたれと肘掛けがあり、安定した姿勢がとれる
- できれば立ち座りを補助する手すりがある
椅子の高さは特に重要で、膝関節よりも股関節の位置が上になる程度が理想です。
補高クッションや補助器具の活用
自宅にある椅子が低い場合は、補高クッション(厚さ5〜10cm)を利用することで調整が可能です。
また、肘掛けがない場合には、立ち座りを補助する簡易手すりやアームレスト付きクッションの導入も検討しましょう。
使用時は、クッションが滑りやすくならないように滑り止めマットを併用すると安全性が高まります。
家族や介護者へのアドバイス
ご家族や介護者が椅子を選ぶ際も、単に「座りやすそう」ではなく、股関節の角度と安定性を意識することが大切です。
また、椅子の高さは日々の中で徐々に見過ごされやすいポイントでもあります。転倒や脱臼のきっかけにならないよう、初期の環境整備として優先的に見直すと良いでしょう。
まとめ
術後の生活での脱臼予防は、特別なトレーニングよりもまず環境整備が基本です。その中でも椅子の高さ・硬さ・形状は、毎日の生活に直結する重要な要素です。
本記事で紹介したイラスト資料は無料でダウンロード可能ですので、患者指導や院内掲示用にもぜひご活用ください。