このプリントは医療従事者の監修のもと作成されたもので、あくまで自主トレーニングの補助資料です。無理のない範囲で行い、症状や痛みがある場合は医療機関に相談しましょう。
はじめに|椅子選びが術後の脱臼予防に与える影響とは?
大腿骨近位部骨折に対して、後方アプローチによる人工骨頭置換術を受けた患者さんは、術後しばらくの間、特定の肢位(姿勢)を避ける必要があります。とくに日常生活の中で頻繁に行われる「立ち座り動作」においては、適切な椅子の使用が脱臼リスクの低減に大きく関与します。
本記事では、リハハウスが提供する【無料ダウンロード可能なイラスト付きプリント】をもとに、「術後に避けるべき椅子」「推奨される椅子の条件」「補助具の活用法」について具体的に解説します。臨床現場での指導や、患者・家族への説明資料としても活用できる内容です。
※本プリントは医療行為を目的としたものではありません。使用に際しては、体調や症状に応じて無理のない範囲で行ってください。
内容と目的|なぜ椅子の高さや形状が脱臼リスクに関わるのか
後方アプローチでは、股関節後方の筋・靱帯構造が切離されるため、術後は以下の3つの動作に注意が必要です。
- 股関節の深い屈曲
- 脚の内旋(内側へのひねり)
- 脚の内転(内側への寄せ)
低い椅子や柔らかいソファでは、座る・立つ際にこれらの危険肢位になりやすく、脱臼のリスクが高まります。とくに片足を後ろに引いたり、姿勢が崩れやすい椅子では、患者が無意識に危険な動作をとってしまうケースも少なくありません。
このようなリスクを防ぐためには、日常的に使用する椅子の見直しが極めて重要です。
活用方法|推奨される椅子の条件と補助具の選び方
術後に避けたい椅子の例
以下のような椅子は、後方脱臼を引き起こしやすいため、使用は避けるべきです。
- 座面が35cm以下など極端に低い椅子
- 柔らかく深く沈み込むソファや座椅子
- 背もたれや肘掛けのない不安定な椅子
- キャスター付きで動いてしまう椅子
- 立ち上がり時に足を後ろへ引きやすい構造の椅子
これらの椅子では、深い屈曲+内旋+内転の肢位に自然と入りやすくなり、脱臼のリスクを大幅に高めてしまいます。
術後に推奨される椅子の条件
安全に使用できる椅子の目安は以下のとおりです。
- 座面高:40〜45cm以上(膝よりやや高め)
- 固めの座面で、沈み込みにくいもの
- 背もたれと肘掛け付きで姿勢が安定しやすい
- 立ち座り補助の手すりがあるとさらに理想的
座るときの角度としては、股関節と膝関節が90度以上開くような状態(やや膝下がり)になるのが安全な姿勢です。
注意点と安全への配慮|補助具と家族への指導ポイント
補高クッションや補助器具の活用
自宅にある椅子が上記の条件を満たさない場合は、補高クッション(5〜10cm程度の厚さ)を使用して座面を調整する方法が有効です。また、肘掛けがない場合には、アームレスト付きのクッションや簡易手すりを併用することで、安全に立ち座りが行える環境が整います。
使用時には、クッションが滑らないように滑り止めマットを敷くなど、二次的な転倒予防策も重要です。
家族・介護者へのアドバイス
患者本人が意識していても、日常生活では椅子の選び方が見過ごされやすいポイントです。ご家族や介護者に対しても、以下の点を意識した説明が重要です。
- 「座りやすさ」よりも「安全な角度と安定性」を重視する
- 椅子の高さは身長や下肢長に応じて調整する
- 環境整備は脱臼予防の第一歩であることを伝える
とくに術後間もない時期は、患者が不意にソファに座ってしまったり、和室で床座になってしまうなどの場面もあるため、周囲の理解と協力が不可欠です。
まとめ|「椅子の選び方」が脱臼リスクを減らす第一歩
大腿骨近位部骨折術後、とくに後方アプローチでは、わずかな姿勢の違いが股関節脱臼に直結することがあります。日常生活のなかで、最も頻度が高く、かつ見過ごされがちな要素が「椅子の種類と高さ」です。
- 高さ・形状・安定性を満たした椅子の使用が基本
- 補高クッションや手すりなどの補助具で安全性を補強
- 家族や介護者も含めた「環境整備の意識共有」が重要
リハハウスでは、こうしたポイントを【無料でダウンロード可能なイラスト付きプリント】としてまとめています。患者指導用の掲示物、退院指導時の資料、家族向け説明書として、現場で即活用できる構成となっています。
脱臼を予防するために、“動作訓練の前にまず環境整備”という視点を、今一度見直してみましょう。