術後に危険な「床での座り方」とは?
大腿骨近位部骨折の手術後、とくに後方アプローチで人工骨頭置換術や骨接合術を受けた方は、特定の姿勢に注意が必要です。
その中でも、和室や畳のある家庭でよく行われる「床座り」は、脱臼リスクが高まる代表的な動作のひとつです。
この記事では、脱臼しやすい床座りのパターンと、安全な座り方を無料のイラスト付き資料とあわせて解説します。
なぜ床座りが脱臼リスクになるのか?
後方アプローチでは、股関節の後方組織(外旋筋群や関節包)が切開されるため、「深い股関節屈曲」「内旋」「内転」といった動作の組み合わせを避ける必要があります。
しかし、床に座る姿勢には以下のような問題があります。
- 股関節が90度以上に屈曲する姿勢
- 片足を内側にたたむ姿勢( 横座り・正座崩し )
こうした姿勢は、股関節を脱臼しやすい危険な肢位に導いてしまうため、術後初期には特に注意が必要です。
❌ 脱臼しやすい床座りの例
以下のような座り方は、脱臼リスクが高いため術後は避けましょう。
- 横座り(足を一方向に流す)
- 正座の崩れた姿勢(左右非対称の体重支持)
- 膝を抱え込むような座り方
- 足を内側にたたむ座り方
これらの姿勢では、股関節が強く屈曲し、内旋や内転も同時に起こるため、後方脱臼のリスクが非常に高くなります。
また、床からの立ち上がりも片足を後ろに引きがちになり、脱臼肢位に入りやすいことも要注意です。
〇 脱臼しにくい床座りの方法とポイント
和室や床生活のある家庭では、床座りを完全に避けることが難しい場面もあります。
その場合は、下記のポイントを意識して安全な床座りを行うことが重要です。
安全な床座りの工夫
- あぐらをかく
- 正座の姿勢(膝関節の疼痛がない場合)
- 背中を壁やクッションに預け、腰を深く曲げないようにする
- 高さのあるクッションや低い座椅子を併用して、股関節の屈曲角度を減らす
このような座り方では、股関節の負担を最小限に抑えることができ、脱臼のリスクを大幅に軽減できます。
環境を整えることでリスクを減らす
床生活の家庭では、以下のような環境調整が効果的です。
- 座椅子を使い、直接床に座らない工夫
- 立ち上がりを補助する手すりや壁の配置
- マットや滑り止めを使ってバランスを取りやすくする
また、どうしても床に座る必要がある場面では、できるだけ介助者がそばで見守ることも安心につながります。
ご家族・介助者へのアドバイス
患者さんご本人が「いつも通りの生活をしたい」と思う気持ちは自然ですが、脱臼は一瞬の姿勢の崩れで起こり得る重大な合併症です。
そのため、環境の調整や安全な姿勢の理解を、ご家族や介助者が支えることが重要です。
指導の際は、実際のイラストを見せながら「どの姿勢が危険なのか」「どうすれば安全か」を具体的に伝えることが効果的です。
まとめ
床座りは日本の生活に根付いた文化であり、完全に禁止するのは現実的ではありません。
しかし、脱臼肢位を避ける工夫をすることで、安全に日常生活を送ることは十分に可能です。
本記事では、脱臼しやすい床座り・安全な床座りの違いを明確にイラスト付きで提示しました。
これらの内容は、患者指導・退院前教育・家族説明にそのまま活用できる教材としてもおすすめです。