はじめに
高次脳機能障害では、記憶障害が日常生活や社会復帰の大きな障壁となることが知られています。特に短期記憶や作業記憶(ワーキングメモリー)の低下は、新しい情報を一時的に保持・再生する力を損なうため、買い物内容の保持、服薬管理、予定の把握、会話内容の記憶など、生活のあらゆる場面に影響を及ぼします。
今回紹介するリハハウスの【無料ダウンロード】プリントは、「果物のイラスト」を活用した視覚的記憶トレーニング素材です。
4種類の果物イラストを提示し、一定時間記憶したのちに名称を想起(書く・言う)してもらうシンプルな構成で、臨床現場でも家庭でも活用できる内容となっています。
イラストを使用することで、言語情報だけでなく視覚情報を手がかりに記憶を呼び起こす練習になります。
※本プリントは医療行為を目的としたものではありません。使用に際しては、体調や症状に応じて無理のない範囲で行ってください。
内容と目的|果物イラストによる視覚記憶トレーニング
■ 課題の概要
このプリントでは、4種類の果物(さくらんぼ、みかん、いちご、パイナップル)が描かれたイラストを一定時間提示し、それを覚えてもらう記憶課題を行います。
その後、提示したイラストを隠し、参加者に「覚えている果物の名前を紙に書く」もしくは「口頭で答える」ように指示します。
この一連の流れは、短期記憶や視覚的注意、言語的想起にかかわる活動を行うきっかけとして活用できます。
■ リハビリ目的
記憶に関する働きに取り組むための課題
視覚情報(イラスト)と名称情報をセットで扱うことで、短期的な記憶や連想の過程を意識しながら進められる構成になっています。
注意の向け方や集中の維持に取り組むきっかけとして
イラストを丁寧に観察し、記憶した内容を思い出すプロセスが含まれるため、注意を向け続ける練習として活用できます。課題内での切り替えや確認作業も行うため、作業手順に意識を向ける機会にもなります。
言語表出の機会をつくる活動として
名称を声に出して確認したり、思い出した内容を説明したりする場面を設けることで、言語を扱うプロセスに触れながら取り組める課題です。状況に応じて、コミュニケーションの補助的な活動としても利用できます。
手順を整理しながら進める練習として
提示→記憶→再確認という一連の流れを踏むため、作業の順序を整理しながら取り組むことができます。段階的に進めていく構造が、手順理解の助けとなります。
このように、果物のイラストを使った記憶課題は、認知リハビリにおける多角的なアプローチとして臨床現場でも汎用性が高い教材です。
運動方法と活用方法|実践手順と応用例
■ 実施手順
- 提示フェーズ(30〜60秒)
果物のイラスト(4種類)を被験者に提示し、「しっかり覚えてください」と声をかけます。
提示時間は対象者の集中力や理解度に応じて調整可能です。
- 記憶フェーズ(短期保持)
イラストを隠し、5〜10秒程度の間隔を置きます。短い保持時間でも想起を促す練習となります。
- 想起フェーズ(解答)
隠した状態で、「覚えている果物の名前をすべて言ってください」または「紙に書いてください」と指示します。語想起が困難な場合は、「思い出すヒント(例:赤い果物、黄色い果物など)」を段階的に与えることも可能です。
- フィードバックフェーズ(答え合わせ)
再度イラストを提示し、正答を確認します。間違いや抜けがあっても、思い出す過程を評価し、肯定的なフィードバックを心がけましょう。
■ 活用方法
- 臨床現場での使用
作業療法や言語療法の個別プログラムで使用できます。記憶障害、注意障害、遂行機能障害をもつ方に対し、認知機能全体の包括的なトレーニングとして活用できます。また、会話練習や物品想起課題など、他の課題と組み合わせることで汎用性が広がります。
- 在宅での自主トレーニング
家庭でのトレーニングでは、家族が提示・隠す役を担当し、結果を一緒に確認する形が推奨されます。果物という身近な題材を扱うため、リラックスしながら楽しく続けられる点も利点です。
段階的に難易度を調整することで、取り組みやすさを保ちながら、継続して学習の幅を広げていくことができます。
注意点と安全への配慮|指導・自主練習時の留意点
■ 実施時の注意点
- 短時間・低負荷から開始
初回は 5 分程度で無理なく取り組める範囲から始め、少しずつ慣れていく流れが望ましいです。長時間続けると疲れやすくなることがあるため、適宜休憩を挟みながら進めるようにしましょう。
- モチベーションを保つ工夫
「全部思い出せた」「3つ覚えられた」といった達成感を言語化して共有することで、次への意欲を引き出せます。
- 環境要因への配慮
テレビやスマートフォンの音、周囲の会話などの刺激を減らし、静かな環境で実施することで集中しやすくなります。
- フィードバックの質を意識
誤答を否定するのではなく、「よく思い出しましたね」「次はもう1つ増やしてみましょう」といった前向きな声かけが効果的です。
■ 臨床・在宅での安全配慮
- 疲労や集中力低下に注意:疲れが見られた場合は即時中止し、休息を促します。
- 認知症や高次脳機能障害が重度の場合は、視覚刺激の数を減らし、指導者が補助を行いながら進めます。
- 在宅訓練時は家族の見守りを推奨し、過度な試行や長時間の取り組みは避けます。
まとめ|果物イラストを使った楽しく効果的な記憶リハビリ
この【無料ダウンロード】果物記憶プリントは、高次脳機能障害の方や軽度認知障害の方にも適応できる実用的な教材です。果物のイラストという馴染みやすいモチーフを用いることで、抵抗感が少なく、自然な形で記憶機能を刺激することができます。
- 視覚・言語・注意・遂行機能を包括的に訓練できる
- 臨床でも在宅でも簡便に実施できる
- 成功体験を積みやすく、モチベーション維持につながる
記憶トレーニングは継続が鍵です。短時間でも毎日続けることで、認知機能の維持・改善が期待されます。
ぜひ、臨床現場のセッションや在宅での自主トレーニングにご活用ください。

