このプリントは医療従事者の監修のもと作成されたもので、あくまで自主トレーニングの補助資料です。無理のない範囲で行い、症状や痛みがある場合は医療機関に相談しましょう。
はじめに
母指(親指)は、手指の中でも特に重要な役割を担う部位であり、つまむ・押す・支える・回す といった多彩な動作の中心を担っています。そのため、手指機能の改善や日常生活動作(ADL)の自立度向上を目指す上で、母指の機能訓練は極めて重要です。
脳血管疾患後の巧緻性低下、変形性関節症、腱鞘炎、廃用による母指球筋の弱化、あるいは高齢者の手指の衰えなどでは、「押す動作が弱い」「母指が安定しない」「つまみ動作が疲れやすい」といった問題が頻繁にみられます。
今回ご紹介する【無料ダウンロード】リハビリプリントは、セラピーパテを机上で円盤状に広げ、母指でゆっくり押し進めるという動作を繰り返す課題を、イラストで直感的に理解できるよう作成した教材です。
母指で「押す」動作に特化しており、母指球筋群(母指外転筋・短母指屈筋など)や、MP関節・IP関節の安定性向上を目的としたトレーニングとして臨床・在宅いずれでも活用できます。
※本プリントは医療行為を目的としたものではありません。使用に際しては、体調や症状に応じて無理のない範囲で行ってください。
内容と目的|母指の押圧動作を強化する専門的トレーニングプリント
課題の具体的内容
このプリントでは、以下の動作をイラストでシンプルに描写しています。
- セラピーパテを円盤状に広げて机上に置く
- 示指〜小指は机に置いたまま、母指だけをパテの上に置く
- 母指で前方へゆっくり押し進める
- パテの形状が変形したら、もう一度丸め直し、同じ動作を繰り返す
イラストで視覚的に動作が理解できるため、初めてパテを使用する方でも迷わず実践できます。
リハビリとしての目的
1. 母指球筋群の強化
母指でパテを押し進める動作は、母指外転筋・短母指屈筋・対立筋などの活性を高め、母指球筋の強化につながる可能背があります。
2. 母指IP/MP関節の安定化
押圧動作では、母指が「曲がり過ぎる」「反り過ぎる」といった代償が起きやすい場面を観察できます。これにより、関節の安定性を高める運動としても活用できます。
3. 押す・支える動作の向上
食事動作(箸・スプーンを支える)、整容動作、家事動作などで必要な「押す・支える」能力を獲得するための基礎トレーニングに適しています。
4. 手指の協調性への関与
示指〜小指を机に置いたまま実施するため、母指のみを分離して動かす能力が自然と養えます。
5. 感覚入力の向上
セラピーパテの粘弾性素材は触覚刺激を伴うため、手指感覚の再学習にも関与します。
運動方法と活用方法|臨床・在宅で応用しやすい手順
基本的な実施手順
まず、対象者にパテを手渡し、手掌で包み込むようにして柔らかく練り直します。その後、机の上に置き、手のひらで押し広げるようにして円盤状に成形します。この成形する過程も、手掌全体の使用感を高める良いウォーミングアップです。
次に、以下の順で課題を実施します。
- セットポジションを作る
示指〜小指は机の上に軽く付けておき、母指のみをパテの上に置きます。手関節は軽度伸展位にすると母指が動かしやすくなります。
- 母指でパテをゆっくり前方へ押し進める
スピードはゆっくりが基本。押しつぶす動作ではなく、「前に送る動き」を意識します。
- 押し進めたら力を抜き、元の位置へ戻す
この“戻す過程”も母指の可動性を高める重要な動作です。
- パテを再度丸めて成形し、同じ動作を繰り返す
形が一度崩れることで、別の方向へ押し進める難易度調整が自然に行われます。
臨床では、以下のような工夫が効果的です。
- パテの粘度を柔→硬へ段階的に変更
- 押し進める距離を指定(例:5cm→8cm→10cm)
- パテに線を描き、そこまで到達させる
- 片手だけでなく、左右交互に行い左右差の評価に使う
課題は単純ですが、調整次第で難易度を柔軟に設定できます。
臨床現場での活用
このプリントは、以下の場面で特に有効です。
- 脳卒中後の母指分離運動訓練
過剰な屈曲・過伸展が生じていないかを簡単に観察できます。
- 変形性関節症(母指CM関節症)初期における軽負荷訓練
強すぎない押圧動作は、無理のない範囲で母指筋の活性化につながる可能性があります。
- 巧緻作業の前に行うウォーミングアップ
書字訓練やつまみ動作の前の準備運動として最適です。
在宅での自主トレーニング
家庭で行う場合は、次のポイントを参考にすると継続しやすくなります。
- 1日5〜10回を目安に実施
疲労が強い日は回数を減らし、調子の良い日は少し増やすなど柔軟に調整します。
- テレビや音楽を聴きながらでも可能
準備が簡単なので習慣化しやすいのが特徴です。
- パテは繰り返し使用できるため経済的
誤って床につけないよう扱いには注意。
- 利き手・非利き手どちらも実施するとバランスが良い
非利き手の母指訓練は、食事動作などの補助手の働きに関与する可能性があります。
注意点と安全への配慮|指導・自主練習時の留意点
- 痛みが出た場合は負荷を下げる
特にCM関節症や腱鞘炎の既往がある場合は注意が必要です。
- 関節が過伸展にならないよう観察する
母指IP関節が反り返りすぎると、過剰な負担になります。
- 力を入れすぎない
押しつぶす動作は避け、ゆっくり押し進める“滑らかな力の伝達”を意識します。
- パテの衛生管理に配慮
使用後はゴミが付着しないようケースに保管します。
- 疲労の蓄積に注意
母指は小さな筋群のため、使いすぎると痛みが出やすい部位です。
まとめ|母指の押圧トレーニングでADLの安定性を高める
今回の【無料ダウンロード】母指リハビリプリントは、セラピーパテを「押し進める」動作に特化した専門的な訓練教材です。運動の目的は以下の通りです。
- 母指球筋群の筋促通
- 押す・支える動作への関与
- 手指の感覚入力
- 巧緻動作トレーニング前のウォーミングアップ
作業療法(OT)を中心に、臨床・在宅のどちらでも使いやすい内容となっています。母指の運動は、手指機能全体の向上に直結する重要な要素です。ぜひ、本プリントをリハビリ指導や自主トレーニングに活用し、患者さんや利用者さんの手の機能向上にお役立てください。

