術後の靴や靴下の脱ぎ履きが「脱臼リスク」になる?
大腿骨近位部骨折の手術後、とくに後方アプローチで人工骨頭置換術などを受けた方は、特定の姿勢を避ける必要があります。その中でも、意外と見落とされがちなのが「 靴や靴下の脱ぎ履きの動作 」です。
日常の中で何気なく行う動作の中に、実は股関節の後方脱臼リスクを高める危険な姿勢が含まれている場合があります。
本記事では、脱臼しやすい靴やNG動作、そして安全な脱着方法のポイントを、無料のイラスト付き資料とともに解説します。
なぜ「靴の脱ぎ履き」で脱臼の危険があるのか?
後方アプローチ後の股関節は、術創周囲の靭帯や筋が低下しており、「股関節を深く曲げる(屈曲)」「内側にねじる(内旋)」「足を内側に寄せる(内転)」の姿勢がそろうと、脱臼が起こりやすいとされています。
特に注意が必要な姿勢は・・・
- 座った状態で体を前屈させて靴下を履こうとする
- 膝を抱えるような姿勢で足を持ち上げる
これらの動作は、術後初期には非常に危険な脱臼肢位に該当します。
❌ 脱臼しやすい靴と避けたい動作
術後は、以下のような靴や動作は避けましょう。
脱臼リスクが高い靴の特徴
- 紐やストラップで締める必要のある靴(かがむ動作が必須)
- スリムなデザインで足を押し込まないと履けない靴
- 屈みこまないと履けない構造のブーツやハイカットシューズ
NGな靴の脱着動作
- 前かがみになって足先に手を伸ばす
- 片足立ちで靴を履く・脱ぐ
これらの動作では、股関節が脱臼しやすい角度に入ってしまいます。
※以下のイラストで脱臼リスクの高い姿勢を解説しています。
〇 安全に靴や靴下を脱ぎ履きするための工夫
術後でも安全に靴や靴下を扱うためには、動作方法の工夫と道具の活用が効果的です。
安全な靴の選び方
- スリッポンタイプやマジックテープ式で、しゃがまずに脱着できるもの
- かかと部分に持ち手付きの靴ベラを使って履ける構造の靴
- 履き口が広く、柔らかい素材の靴
靴下の履き方・道具
- ソックスエイド:靴下を差し込んで、手を伸ばさずに履ける補助具
- リーチャー(マジックハンド):足元の物を拾ったり、靴下を調整するために使用
また、ベッドの縁や安定した椅子に座った状態で動作を行うことも、バランスを崩さず安全に作業できるポイントです。
ご家族・介助者へのアドバイス
術後の生活では、患者さんご本人が痛みや不安から動作を急ぐ場合もあります。
脱臼は一瞬の油断で起こるため、安全な動作が習慣づくよう、ご家族や介助者の声かけやサポートが非常に重要です。
たとえば、以下のような支援が効果的です:
- 靴をあらかじめ履きやすい位置に置いておく
- 靴下の履き替えをベッド上で行う
- 必要に応じて装具や補助具の使い方を一緒に練習する
まとめ
術後のリハビリでは、歩行訓練や可動域訓練が注目されがちですが、日常生活の基本動作に潜む脱臼リスクにも目を向けることが重要です。
とくに靴や靴下の脱着は頻繁に行う動作であるため、安全な道具・動作の習得は、安心して生活を送るための第一歩です。
紹介した内容とイラスト資料は、患者指導・退院前指導・掲示物としての活用も可能です。ぜひご活用いただき、脱臼予防の一助になれば幸いです。