このプリントは医療従事者の監修のもと作成されたもので、あくまで自主トレーニングの補助資料です。無理のない範囲で行い、症状や痛みがある場合は医療機関に相談しましょう。
はじめに|「靴・靴下の脱ぎ履き」に潜む脱臼リスクとは?
リハビリテーションの現場では、歩行訓練や筋力強化に注目が集まりやすい一方で、日常生活動作の中に潜むリスクが見落とされがちです。その代表的な例が、「靴や靴下の脱ぎ履き」です。
特に大腿骨近位部骨折に対し、後方アプローチで人工骨頭置換術を受けた方は、股関節の安定性が一時的に損なわれており、脱臼肢位を避ける必要があります。
本記事では、術後の脱臼予防の観点から、靴や靴下の脱ぎ履きに潜む危険性とその対策を、無料ダウンロード可能なイラスト付きプリントとともに解説します。臨床指導や退院前の生活指導にそのまま活用できる内容です。
※本プリントは医療行為を目的としたものではありません。使用に際しては、体調や症状に応じて無理のない範囲で行ってください。
内容と目的|なぜ「靴の脱ぎ履き」が脱臼を引き起こすのか
後方アプローチ術後の股関節は、筋や靭帯の支持性が一時的に低下しており、以下の3動作が揃った時に特に脱臼のリスクが高まります。
- 股関節の深い屈曲
- 内旋(脚を内側にひねる動き)
- 内転(脚を内側に寄せる動き)
靴や靴下の脱ぎ履きでは、自然と体を前屈し、足元に手を伸ばす姿勢が多くなります。とくに以下のような動作が危険です。
- 座ったまま大きく前屈して靴下を履く
- 片足を持ち上げて膝を抱えるように靴を脱ぐ
- 片足立ちで靴を脱ごうとする
これらの動作はすべて、後方脱臼を誘発しやすい姿勢に該当します。
運動方法と活用方法|安全な靴・靴下の扱い方と補助具の利用
術後に避けたい靴とNG動作
脱臼リスクを高める靴の例
- 紐靴やバックル付きなど、前屈を伴う着脱が必要な靴
- 履き口が狭く、強く押し込む必要がある靴
- ハイカットのブーツや、かかとが硬くて履きにくい靴
NGな動作
- 床に座って足先まで前屈しながら脱ぎ履きする
- 片足でバランスを取りながら立ったまま脱ぎ履きする
これらの姿勢は、股関節の深い屈曲+内旋+内転が重なり、後方脱臼の危険性が非常に高くなります。
安全な脱ぎ履き方法とおすすめの靴
安全に脱ぎ履きできる靴の条件
- スリッポンタイプや面ファスナー(マジックテープ)式でしゃがまずに履ける
- かかとにループやタブがついており、靴ベラが使える構造
- 履き口が柔らかく広い設計で脱ぎ履きがしやすい
靴の選定と合わせて、補助具の活用が推奨されます。
主な補助具として
- ロング靴ベラ:立ったまま、または座ったまま無理なく履ける
- ソックスエイド:靴下を装着する補助具で、手を伸ばさずに履ける
- リーチャー(マジックハンド):足元に落ちた靴や靴下を拾うのに便利
また、座って脱ぎ履きする場合は、安定した椅子やベッドの縁を活用し、足を前に出した状態で行うと安全性が高まります。
注意点と安全への配慮|家族・介助者も含めた支援が鍵
術後の患者さんは、痛みや不安により動作が不安定になりがちです。さらに、早く済ませたいという心理から、無理な動作で靴や靴下を脱ぎ履きしようとするケースもあります。
そのため、以下の点に配慮することが大切です。
- 動作前に、靴を履きやすい位置に準備しておく
- 靴下の着脱はベッド上や椅子に座った安定した状態で行う
- 必要に応じて、補助具の使い方を一緒に練習する
- ご家族や介助者が声かけや支援を行い、安全を確保する
とくに退院後、自宅での生活が始まると、患者さんが一人で行う場面が増えます。
家族や介助者への指導も、脱臼予防の一環として非常に重要です。
まとめ|日常の“何気ない動作”にこそ注意を向けよう
後方アプローチによる大腿骨近位部骨折術後では、術後初期の脱臼リスク管理が生活の質を大きく左右します。
その中でも、靴や靴下の脱ぎ履きは、頻度が高く見落とされやすい動作です。
- 屈まずに履ける靴や補助具を活用
- 安全な姿勢で動作を習慣化
- 家族や介助者の支援で無理のない生活をサポート
リハハウスでは、こうした内容を無料でダウンロード可能なイラスト付きプリントとして提供しています。
患者さんへの直接指導はもちろん、退院前カンファレンスや院内掲示物、リハビリカンファなど多職種共有資料としても活用可能です。
日常の小さな工夫が、大きなトラブルの予防につながります。ぜひ本資料をご活用いただき、術後の生活支援にお役立てください。