はじめに
高次脳機能障害や脳卒中後の認知機能低下をもつ方では、空間認知能力や遂行機能(計画・予測・思考の柔軟性)の低下がしばしば見られます。これらの障害は、日常生活の中で「位置関係を誤る」「物を置いた場所を覚えられない」「手順を組み立てにくい」といった問題を引き起こすことがあります。
今回紹介する【無料ダウンロード】プリントは、サイコロをモチーフにした空間認知と予測力を高めるリハビリ課題です。たくさんのマス上にサイコロが配置されており、「スタートからゴールまでマスに沿って転がしたとき、最終的に上面にくる数字は何か?」を考えて答える内容です。
シンプルな構成ですが、頭の中でサイコロの回転をイメージする必要があるため、空間的把握力・ワーキングメモリ・論理的思考力のすべてを同時に鍛えることができます。臨床でも、自主トレでも効果的に活用できる課題です。
※本プリントは医療行為を目的としたものではありません。使用に際しては、体調や症状に応じて無理のない範囲で行ってください。
内容と目的|サイコロを用いた空間認知・遂行機能課題
■ 課題の概要
このプリントでは、マス目状のフィールドにサイコロの絵が描かれています。サイコロにはそれぞれの面に1〜6の数字があり、最初の状態(スタート時点の上面)から、マスに沿って「転がしていく」イメージで進めます。指定されたゴール地点にたどり着いたとき、サイコロの上面にはどの数字が来るかを予測して記入するのが課題です。
この一連の過程は、視覚的想像力だけでなく、位置関係の把握、回転方向の推定、そして途中の状態を一時的に記憶する能力を総合的に要求します。
■ リハビリの目的
- 空間認知機能の向上
サイコロを頭の中で回転させ、方向や面の位置関係を推測することで、三次元的な空間把握能力を養います。
- ワーキングメモリ(作業記憶)の強化
転がすたびに変化するサイコロの状態を保持しながら次の動作をイメージするため、短期的な情報保持と更新の力を鍛えます。
- 遂行機能・論理的思考力の強化
最終的な答えにたどり着くためには、途中の手順を論理的に構築する必要があり、計画性や順序立ての訓練になります。
- 注意力・集中力の向上
マス目の数、転がす方向、サイコロの面といった複数の要素を同時に処理するため、持続的注意と分配的注意を促進します。
この課題は、高次脳機能障害、発達性認知障害、老年期認知機能低下など、多様なケースで応用が可能です。
運動方法と活用方法|実践手順と応用例
■ 基本的な実施手順
- 課題の提示
対象者にプリントを見せ、「サイコロをスタート位置からマスに沿って転がしていき、ゴールに着いたとき上にくる数字を考えてみましょう」と説明します。
- イメージフェーズ
対象者にサイコロをイメージし、回転の方向を確認します。指でサイコロをなぞるように動かしながら、回転を具体的に想像してもらうと理解が深まります。
- 思考・予測フェーズ
転がすごとに上面がどの数字になるかを頭の中で追いながら、最終地点での上面を予測して答えます。実際のサイコロを使って確認しても構いません。
- 確認フェーズ
最後に答え合わせを行い、正答を導く過程を一緒に振り返ります。間違えた場合は、どのタイミングで誤ったかを検討し、修正手順を考えることで遂行力を高めます。
■ 臨床現場での活用
- 作業療法・言語療法での利用
視空間構成能力や論理的思考力を評価・訓練する教材として利用できます。特に、注意障害や遂行機能障害を伴う高次脳機能障害のケースに有効です。また、口頭で「上→右→下→左」といった指示を与え、対象者がその都度上面の数字を答える形式にすることで、言語的作業記憶訓練としても応用できます。
- 多職種での連携活用
理学療法士(PT)や言語聴覚士(ST)との合同訓練時にも導入しやすい課題です。サイコロの転がりを身体動作に置き換え、床上で実際に体の向きを変えながら体験するなど、身体感覚と空間認知の統合訓練に発展させることも可能です。
- 在宅での自主トレーニング
家庭でも簡単に取り組める内容のため、印刷して家族と一緒に楽しむことができます。親子や夫婦でクイズ形式にして実施することで、コミュニケーションの活性化にもつながります。
■ 難易度調整の工夫
- 初級:転がす回数を2〜3回に限定し、方向を少なく設定する。
- 中級:転がす回数を4〜6回に増やし、経路を複雑にする。
- 上級:複数のサイコロを同時に転がす、または途中で進行方向を変更するなど、柔軟思考力を要求する課題にする。
段階的に難易度を調整することで、認知負荷をコントロールし、対象者の能力に応じたトレーニングが可能です。
注意点と安全への配慮|指導・自主練習時の留意点
■ 実施時の注意点
- 理解度に応じたサポート
初回はサイコロを実物で確認しながら行うと、空間的イメージがつかみやすくなります。抽象的な説明だけでは理解が難しい場合があるため、視覚的補助を併用しましょう。
- 短時間・低負荷を心がける
集中力を維持しやすいよう、1回あたり5〜10分を目安とします。疲労や注意低下が見られた場合は中断します。
- 誤答を否定しない
答えが間違っていても「よく考えました」「途中までは合っていました」などの肯定的フィードバックを心がけ、学習意欲を維持します。
- 環境調整
明るく静かな場所で実施し、余分な刺激を避けることで集中を促します。
■ 自主練習時の安全配慮
- 家族が一緒に確認・サポートすることで安全かつ楽しく継続できます。
- 課題に熱中しすぎて疲労が溜まらないよう、休憩をこまめに挟みます。
- 難易度を上げすぎず、成功体験を積めるレベルで実施することが継続の鍵です。
まとめ|サイコロを使った空間思考トレーニングで遂行力を高める
この【無料ダウンロード】サイコロ課題プリントは、空間認知・ワーキングメモリ・遂行機能の向上に役立つ認知リハビリ教材です。
- サイコロの回転をイメージして答えることで、空間的把握力と論理的思考を同時に刺激
- 臨床でも在宅でも手軽に導入でき、難易度調整が容易
- 成功体験を積み重ねることで、モチベーションと認知機能の両方を強化
継続的なトレーニングにより、認知的柔軟性や遂行力の改善、日常生活での問題解決能力の向上が期待されます。ぜひ、臨床現場での指導や在宅での自主トレーニングにご活用ください。

