はじめに
高次脳機能障害や脳血管障害後の方にみられる遂行機能障害は、日常生活の自立に大きな影響を及ぼします。遂行機能とは、目的を達成するために「計画を立てる」「優先順位を決める」「状況に応じて行動を修正する」といった一連の思考・行動制御を行う能力です。
この能力が低下すると、たとえ身体的な動作が可能でも、「何から始めればいいか分からない」「手順を飛ばしてしまう」「間違いに気づかない」といった困難が生じます。
今回紹介する【無料ダウンロード】プリントは、スタートからゴールまでのルートを順番にたどっていく経路探索課題です。
学校、コンビニ、公園といった日常的な目的地を設定し、指定された順に線で結んでいく構成となっています。途中には通行できない「バツ印(✕)」や「道がない箇所」があり、ルールを守りながらゴールを目指す必要があります。
この課題は、単なる迷路ではなく、遂行機能・注意機能・空間認知能力を同時に鍛える実践的な教材です。臨床現場だけでなく、自主トレーニング教材としても活用できます。
※本プリントは医療行為を目的としたものではありません。使用に際しては、体調や症状に応じて無理のない範囲で行ってください。
内容と目的|順序立てて考える遂行機能トレーニング
■ 課題の概要
本プリントは、紙面上に「スタート」「学校」「コンビニ」「公園」「ゴール」と描かれたイラストが配置されています。
対象者は、以下のルールに従って経路を線でつなぎます。
- スタート → 学校 → コンビニ → 公園 → ゴールの順に進む。
- バツ印(✕)の道は通れない。
- 道が途切れている箇所も通行不可。
- 同じ場所は何度通っても良い。
このルールを理解し、順序を守って線を引いていくことで、目標設定・計画立案・行動抑制・再計画といった遂行機能の各プロセスを刺激する構成になっています。
■ 目的
- 遂行機能の改善
与えられたルールを踏まえ、最適なルートを考えて実行するプロセスを通じて、目標達成までの一連の思考力を強化します。
- 注意力・抑制機能の強化
通行禁止の道を見落とさないようにすることで、選択的注意や視覚的抑制能力を高めます。
- 空間認知・構成力の向上
地図状の配置を理解し、位置関係を正確に把握して線を引く作業により、視空間認知能力が養われます。
- 柔軟な思考力の育成
途中で道がふさがっていた場合、ルートを再考する必要があります。この再計画の過程が柔軟な思考力を促します。
本課題は、遂行機能訓練の導入や応用段階として適しており、臨床現場では症状の程度に応じた難易度調整も容易です。
運動方法と活用方法|実施手順と応用的活用
■ 基本的な実施手順
- 説明フェーズ
対象者にプリントを見せ、「スタートからゴールまで、学校→コンビニ→公園の順に通ってください」と説明します。「バツ印は通れない」「同じ道は何度通ってもOK」といったルールを明確に理解してもらうことが重要です。
- 探索フェーズ
対象者は視覚的に経路を確認しながら線を引いていきます。迷った場合は一度手を止め、どこで進めなくなったかを考えるよう促します。
- 確認フェーズ
ゴールに到達したら、経路が正しい順序・ルールに従っているかを一緒に確認します。
誤りがあった場合も「ここは通れなかったね」「別の道を探してみましょう」といった肯定的な声かけが大切です。
- 再挑戦・応用フェーズ
正答ルートを確認した後、あえて別ルートを探してもらうなど、応用的思考を促すとより効果的です。
■ 臨床・在宅での活用例
- 臨床現場での使用
作業療法(OT)や言語療法(ST)などで、遂行機能・注意機能・空間認知の包括的アプローチとして使用可能です。課題遂行時の「ルール遵守」「問題解決過程」「誤りへの対応」などを観察することで、遂行機能の質的評価にもつながります。
- 在宅トレーニングとしての活用
家族がサポートしながら楽しく取り組むことができます。
「学校の次はどこだっけ?」「バツ印があるから別の道を探そう」と声かけを行うことで、コミュニケーションにもつながります。
- 難易度の調整方法
初級:目的地を減らし、バツ印を少なくする。
中級:バツ印や行き止まりを増やし、経路を複雑化。
上級:制限時間を設け、「記憶でルートをたどる」などの要素を追加。
注意点と安全への配慮|指導・自主練習時の留意点
■ 実施時の注意点
- 短時間での集中を意識する
遂行機能課題は集中力を要するため、1回あたり5〜10分程度で区切るのが望ましいです。
- ルール理解を丁寧に確認する
「順番」「通行禁止」「道の有無」などを誤解したまま進むと、課題の目的が変わってしまいます。説明と確認をしっかり行いましょう。
- 成功体験を積ませる
途中で間違えても、やり直しを通じて「考え直す」体験が重要です。正解よりも思考過程を評価しましょう。
- 視覚的補助の工夫
見づらい場合は線を太くする、色分けするなどの調整で視覚的負担を軽減します。
■ 安全への配慮
- 集中力が低下した際には休憩を挟み、無理に続けないようにします。
- 視覚的・身体的負担に応じて課題のサイズや時間を調整します。
- 在宅練習時は、家族が見守りながら安全に実施できるようサポートします。
まとめ|考える力と計画性を育てる遂行機能プリント
この【無料ダウンロード】スタートからゴールを目指す遂行機能課題プリントは、高次脳機能障害や注意障害を有する方に対して効果的な認知リハビリ教材です。
- スタートからゴールまでの「順序を考える力」を鍛える
- 通れない道を回避することで「抑制力」と「注意力」を高める
- 柔軟な思考と再計画力を養う
臨床現場では、評価と訓練の両面で活用でき、在宅では認知トレーニングや予防にも応用できます。
身近なテーマ(学校・公園・コンビニ)を扱うことで、対象者に親しみやすく、楽しみながら遂行力を伸ばすことができるのが特徴です。
継続的な実施によって、課題遂行力の向上・日常生活の安定化・社会参加の促進が期待されます。
ぜひ、臨床や自主トレーニングにお役立てください。

