はじめに
計算課題は、単に数値を扱うトレーニングにとどまらず、論理的思考・空間認知・ワーキングメモリ(作業記憶)といった多面的な認知機能を刺激できるリハビリ教材です。特に、高次脳機能障害や軽度認知障害をもつ方、または脳卒中後に注意力や思考のスピードが低下した方に対しては、数的処理課題を取り入れた訓練が有効とされています。
今回紹介する【無料ダウンロード】プリントは、ピラミッド型の計算問題 その⑤ です。5段組のピラミッドの最下段に複数の数字があり、それぞれ隣り合う数字を足して上段に書き込むことで、最上段の頂点まで計算を進める構成になっています。一見パズルのように楽しみながら、計算力・論理的思考力・視覚的構成力を自然に鍛えることができます。
臨床現場のリハビリだけでなく、在宅での自主トレーニング教材としても使いやすいプリントです。
※本プリントは医療行為を目的としたものではありません。使用に際しては、体調や症状に応じて無理のない範囲で行ってください。
内容と目的|ピラミッド型構造で思考過程を鍛える数的課題
■ 課題の概要
このプリントでは、5段構成のピラミッド型図形が2問用意されています。
最下段に数字が5個並んでおり、それぞれの隣り合う数字を足して上段に記入していく課題です。
計算を繰り返していくと、最上段(頂点)に最終的な答えが1つ導き出されます。
このような構成は、単純な加算問題ではなく、構造的に考える力や前後の関係性を把握する能力を必要とする点が特徴です。
■ リハビリの目的
- 数的処理能力の改善
1桁の数字同士を繰り返し足すことで、基礎的な加算能力の維持・向上を図ります。数字の把握や処理スピードの改善にもつながります。
- 論理的思考力・順序立ての訓練
下段から上段へ順に答えを導くため、「どの順番で進めるか」を考える遂行的思考が求められます。段階的な思考プロセスを意識させる訓練として効果的です。
- ワーキングメモリの強化
複数の数字を一時的に記憶しながら計算を進めるため、短期的な情報保持力や操作能力が刺激されます。
- 空間認知・構成力の向上
ピラミッド型のレイアウトにより、数値を位置的に捉える練習になります。構造的に整理して考える力が養われます。
- 認知的持続力の強化
2問構成のため、連続して集中して行う必要があります。短時間でも「考える体力」を高めることが可能です。
運動方法と活用方法|臨床・在宅での実践的アプローチ
■ 基本的な実施手順
- 課題の提示
「下の段の数字をそれぞれ足して、上の段に結果を書きましょう」と説明します。
例として「下段が2・3・5の場合 → 上段は(2+3)=5、(3+5)=8、上の段のさらに上は(5+8)=13」といった手順を一緒に確認します。
- 実施フェーズ
順序立てて計算を進め、すべてのピラミッドの頂点が埋まるまで取り組みます。
ペンを使用して実際に記入しながら行うと、視覚・運動協調の訓練にもなります。
- 答え合わせ
全問が完了したら、合計値が正しいかを一緒に確認します。間違いがあった場合は、「どの段階で誤差が出たか」をフィードバックします。こうした誤り検出の過程も遂行機能訓練として有効です。
■ 臨床現場での活用
- 作業療法(OT)での利用
高次脳機能障害を対象とした認知リハビリに適しています。
計算能力だけでなく、順序立てや論理思考を観察する評価課題としても有用です。
また、プリント操作時の筆圧・姿勢・作業速度を通して、上肢巧緻性や注意の安定性も確認できます。
- 言語療法(ST)での活用
口頭で計算手順を説明してもらうことで、言語的表出能力や思考の整理力のトレーニングにもつながります。
「どうやってその答えを出したのか」を言語化させることで、内省的思考を促進できます。
- 段階的難易度の設定
初級:1桁の数字のみ使用。
中級:2桁の数字や負の数を導入。
上級:途中の段を一部空欄にして、逆算形式で答えを推測する応用問題に発展させる。
■ 在宅での自主トレーニング
家庭でも簡単に取り組めるため、在宅リハビリ教材としてもおすすめです。
筆記が難しい方は、口頭で数字を読み上げながら答えを出すだけでも効果があります。
家族が「次はどんな数字になる?」「最後はいくつかな?」と声をかけながら行うことで、コミュニケーションを取りながら脳を刺激する活動に発展します。
また、難易度を調整することで、飽きずに継続しやすくなります。
1日1枚(6問)を目安に取り組むと、無理なく習慣化できるでしょう。
注意点と安全への配慮|指導・自主練習時の留意点
- 疲労と集中力の低下に注意
計算課題は想像以上に認知的エネルギーを要します。疲労や注意低下が見られた場合はすぐに休憩を取ります。
- 姿勢と視線の安定
机と椅子の高さを調整し、視線がピラミッド全体を見渡せるようにします。
視野障害や半側空間無視がある場合は、数字の配置を工夫することで負担を軽減できます。
- 誤答を否定しない
間違いを責めるのではなく、「次はどこで工夫できそうか」と建設的な声かけを行います。モチベーションの維持が重要です。
- 安全配慮
視覚疲労や頭痛、集中困難などがみられた場合は即時中止します。
必要に応じて、字を大きく印刷したバージョンを使用しましょう。
まとめ|ピラミッド計算で「考える力」を育てるリハビリプリント
この【無料ダウンロード】ピラミッド型計算リハビリプリントは、計算力・論理的思考力・ワーキングメモリ・構成力を同時に鍛えることができる実践的な教材です。
- 下段から上段へと進む段階的な構造が、自然と論理的思考を促す
- シンプルながらも、認知機能の多側面を包括的に刺激できる
- 臨床・在宅の両方で活用でき、数的処理の維持・強化に最適
継続的に取り組むことで、考える過程の整理力・計算精度・認知的柔軟性の向上が期待されます。
ぜひ、臨床現場での指導や家庭での自主トレーニングにご活用ください。

