このプリントは医療従事者の監修のもと作成されたもので、あくまで自主トレーニングの補助資料です。無理のない範囲で行い、症状や痛みがある場合は医療機関に相談しましょう。
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はじめに
高次脳機能障害や軽度認知障害(MCI)、脳卒中後の患者さんでは、記憶障害や注意機能の低下が日常生活に大きく影響します。「さっき見たものを思い出せない」「物の場所を忘れてしまう」「必要な情報だけにうまく注意を向けられない」といった訴えは、臨床の現場でもよく耳にするところだと思います。
こうした症状に対するリハビリテーションでは、
- 視覚情報を一度取り込む
- 必要な情報を保持する
- その後、変化や欠損に気づく
といった一連の認知処理をトレーニングできる課題が有用です。
今回リハハウスで提供する【無料ダウンロード】イラストプリントは、紙面上の複数のイラストのうち「どれが消えたのか」を探すないもの探し形式の記憶課題 その② です。
- 紙の上半分:基準となるイラストが複数個並んでいる
- 紙の下半分:そのうち1つだけを消して、残りをランダムに再配置している
という構成になっており、「上と下を見比べて、どのイラストが消えているかを見つける」ことが課題となります。視覚的な楽しさを保ちつつ、記憶・注意・視覚探索を同時に刺激できるプリントですので、臨床の個別訓練から在宅の自主トレーニングまで幅広く活用いただけます。
※本プリントは医療行為を目的としたものではありません。使用に際しては、体調や症状に応じて無理のない範囲で行ってください。
内容と目的|「ないもの探し」で記憶と注意を同時に鍛える
■ 課題の概要
このプリントは、いわゆる「間違い探し」とは少し異なり、“1つだけ消えたイラスト” を探す記憶課題です。
- 紙の上半分:複数のイラストが一定の並びで配置
- 紙の下半分:上のイラスト群から1つだけを除外し、残りをランダムに配置
対象者は、まず上半分のイラスト群を覚えることに集中します。その後、下半分のイラストを見ながら、「上にはあったのに、下では見当たらないイラストはどれか?」を探し出します。
単に「違い」を見つけるのではなく、一度見た内容をいったん頭の中に保持し、その後の情報と比較して欠落を捉えるプロセスが求められる点が、本課題の特徴です。
■ リハビリでの主な目的
- 視覚性短期記憶のトレーニング
上部のイラストを一度見て覚え、その後に比較する必要があるため、視覚性短期記憶を直接的に刺激します。
- 選択的注意・持続的注意の向上
多数のイラストの中から「消えた1つ」を見つけるためには、視覚探索の際の選択的注意と、課題に向き合い続ける持続的注意が重要となります。
- 視覚探索能力の改善
上と下を行き来しながら、複数の情報を照合していくため、視線の動きや探索範囲を自然に広げる訓練になります。
- 認知的柔軟性・比較判断の訓練
「ある/ない」を判断する比較処理が発生するため、情報の照合・変更に気づく力を鍛えることができます。
- 遂行機能の補助的トレーニング
「上を覚える → 下と比べる → 答えを決める」という一連の流れを自分で進めていくことで、手順の理解・実行という遂行機能にも軽く働きかけることができます。
運動方法と活用方法|臨床・在宅それぞれでの実践イメージ
■ 基本的な実施手順
- 課題の説明
最初に、対象者へ次のように説明します。
「上にいくつか絵が並んでいます。この絵をよく覚えてください。そのあと、下の絵と見比べて、上にはあったのに下にはない絵を1つ探しましょう。」
- 観察・記銘フェーズ(上半分のイラストを見る)
– 30〜60秒程度、上半分のみを集中して見てもらいます。
– 必要に応じて、「個数」「特徴(色・形)」などを口頭で整理してもらうと、記銘過程の補助になります。
- 比較・探索フェーズ(下半分との照合)
– 次に、上と下を見比べながら「消えた1つ」を探してもらいます。
– 指でなぞしながら1つずつ確認していく方法も有効です。
- 解答の確認
見つけたイラストを指さし、口頭もしくは書字で答えてもらいます。
「〇〇のイラストが消えています」など、言語表出も組み合わせることでより多面的な訓練になります。
■ 臨床現場での活用方法
- 作業療法(OT)場面での活用
机上での注意・記憶トレーニングとして導入しやすい課題です。
視線の動き、探索のパターン、見落としの傾向などを観察することで、注意・視空間機能の評価にもつなげられます。
- 言語聴覚療法(ST)との併用
見つけたイラストを「名前で言う」「どこにあったか説明する」など、言語課題と組み合わせることで、記憶+言語表出の訓練として発展させることができます。
- 理学療法(PT)との組み合わせ
座位バランス訓練中に机上課題として取り入れれば、姿勢保持と認知課題の同時負荷が可能です。
半側空間無視を伴う症例では、紙の配置やイラストの位置を工夫することで、左側への視覚探索を促すような応用も考えられます。
■ 在宅での自主トレーニングとして
家庭でも印刷さえできれば簡単に使用できる構成です。
ご家族や介護者がそばにつき、次のような声かけを行うと、より効果的に取り組めます。
- 「上の絵をよく見てみようか」
- 「覚えられたかな?今度は下の絵と比べてみよう」
- 「上にあったけど、下に見当たらない絵はどれかな?」
難易度調整のポイントとしては、
- イラストの数を増減させる
- 類似した形・色のイラストを増やす/減らす
- 並べ方を規則的→ランダムへと変えていく
といった工夫が挙げられます。初期は「明らかに特徴の異なるイラスト」から始め、慣れてきたらバリエーションを増やすと飽きにくく、継続しやすいです。
注意点と安全への配慮|指導・自主練習時の留意点
- 認知疲労に配慮する
記憶・注意機能を同時に使う課題のため、短時間でも疲労感が出やすい場合があります。
1回あたり5〜10分程度を目安にし、疲れが見られたら無理をせず中断します。
- 「できなかった」感を残さない声かけ
見つけられない場合も、「もう一度一緒に見てみましょう」「ここまではよく覚えられていましたね」といった肯定的なフィードバックを重視します。
- 視覚機能への配慮
視力低下や視野障害がある場合は、イラストを大きめに印刷する・コントラストを強めるなどの工夫が望まれます。
- 難易度が高すぎないよう調整する
最初からイラスト数が多すぎると、記憶困難だけでなくモチベーション低下にもつながります。
対象者の負担感に応じて段階的に難易度を設定しましょう。
- 安全な環境での実施
座位バランスが不安定な方の場合は、椅子の高さや背もたれ、足台などを調整し、安全に課題へ集中できる環境を整えることが重要です。
まとめ|「ないもの探し」で楽しく記憶と注意をトレーニング
この【無料ダウンロード】リハビリ用イラストプリントは、
- 上下のイラストの違いから「消えた1つ」を探す
- 視覚性短期記憶・注意・視覚探索を同時に刺激できる
- 臨床・在宅の双方で利用しやすい構成
という特徴を持ったないもの探し形式の記憶課題プリントです。単なるゲーム的な課題ではなく、
- 見る
- 覚える
- 比べる
- 気づく
という一連の認知プロセスを丁寧にトレーニングできる点が、リハビリ専門職にとっても扱いやすいポイントです。継続的に取り組むことで、「なんとなく見ている」から「意識して覚える・探す」への変化を促し、日常生活での注意・記憶の質の向上にも寄与することが期待されます。
臨床での個別訓練、通所リハでのグループ活動、在宅での自主トレーニングなど、さまざまな場面でぜひご活用ください。

