同じ運動プログラムを行っていても、筋力が大きく改善する人もいれば、歩行能力にあまり変化がみられない人もいます。
こうした運動療法の効果の個人差について、2026年10月、フィンランドの研究チームが新たな研究結果を報告しました。
今回注目したいのは、筋肉量と筋力、歩行能力では、運動に対する反応が必ずしも一致しなかったことです。
12か月間の運動療法で何が変わった?
研究では、地域在住の高齢者314人(平均74.5歳)を対象に、12か月間の運動プログラムを実施しました。
参加者は、運動療法のみの群と、運動療法に認知トレーニングを追加する群に分けられています。
共通して行われた運動プログラムには、次の内容が含まれていました。
- 筋力トレーニング
- 歩行練習
- バランストレーニング
- 柔軟性運動
- 自宅での運動
今回の解析では、介入前後のデータがそろった288人を対象に、筋力・筋肉量・歩行能力の変化を調べています。
筋力は改善しても、筋肉量は変わらない?
研究では、運動によって大きな改善を示した人の割合を、評価項目ごとに比較しました。

| 評価項目 | 大きな改善を示した割合 |
|---|---|
| 膝伸展筋力 | 46% |
| 6分間歩行距離 | 44% |
| 最大歩行速度 | 30% |
| 握力 | 27% |
| 四肢除脂肪量 | 17% |
※「大きな改善」は、研究で設定した変化量の基準と測定誤差を考慮して分類したものです。
膝伸展筋力や歩行距離では比較的多くの参加者が大きな改善を示した一方、四肢除脂肪量は研究対象者全体の平均では有意な変化がありませんでした。
つまり、筋肉量に明確な変化がなくても、筋力や歩行能力が改善する場合があるということです。
ただし、大きな改善に分類されなかった人に、運動の効果がなかったという意味ではありません。
なぜ同じ運動でも効果に差が出るのか?
運動に対する反応には、年齢、身体機能、健康状態、運動の実施状況など、さまざまな要因が関係する可能性があります。
今回の研究では、比較的若い年齢、低いBMI、筋力トレーニングへの高い参加率などが、複数の身体機能項目で大きな改善を示すことと関連していました。
一方、すべての評価項目に共通する明確な予測因子は見つかっていません。
したがって、年齢やBMIだけで「この患者は改善しやすい」と判断することはできません。
リハ職が注目したい3つのポイント
① 改善を一つの評価項目だけで判断しない
例えば、筋力トレーニングを継続した患者で、筋肉量に大きな変化がなくても、立ち上がり動作や歩行能力が改善していることがあります。
反対に、筋力が改善していても、歩行速度やADLには十分につながっていない場合もあります。
そのため、筋力・歩行・バランス・ADLなど、介入目的に合った複数の評価指標を設定することが重要です。
② 改善が乏しい場合は、まず運動の実施状況を確認する
「筋力トレーニングをしているのに改善しない」
そんなとき、運動の種類をすぐに変更する前に確認したいのが、実際の運動量です。
運動頻度、負荷量、反復回数、疲労、疼痛、自主トレの実施状況などを整理します。
今回の研究でも、筋力トレーニングへの参加率が高いことは、複数の身体機能項目での大きな改善と関連していました。
ただし、参加率が高ければ必ず改善するという因果関係が証明されたわけではありません。
③ 身体機能の改善を生活動作につなげる
膝伸展筋力が改善しても、それだけで歩行や階段昇降が自立するとは限りません。
また、6分間歩行距離が改善したとしても、買い物や外出が増えるとは限りません。
リハビリでは、数値の変化に加えて、
「実際の生活で何ができるようになったのか」
を確認することが大切です。
臨床で実践したい評価・再評価の流れ
運動療法を開始するときは、改善させたい機能を明確にします。
例えば、歩行持久力の改善が目標であれば6分間歩行試験、歩行速度が目標であれば10m歩行テストなどを検討します。
そのうえで、次の流れを意識します。

① 評価する
筋力、歩行速度、歩行距離、バランス、ADLなどから、介入目的に合う指標を選びます。
② 運動を実施する
身体状態と安全性を確認し、適切な運動の種類・負荷・頻度を設定します。
③ 再評価する
開始時と同じ測定条件で評価し、身体機能の変化を確認します。
④ 必要に応じて調整する
改善が乏しい場合には、負荷量だけでなく、疼痛、疲労、合併症、運動の実施状況、生活環境などを見直します。
また、高齢者では身体機能の低下を防ぎ、機能を維持すること自体が重要な場合もあります。
今回の研究を臨床へどう活かす?
今回の研究は、地域で生活し、一定の歩行能力を有する高齢者を対象としたものです。
入院中の高齢患者や重度の身体機能障害を有する患者に、そのまま結果を当てはめることはできません。
また、今回の個人差に関する分析には、運動を実施しない対照群がありません。そのため、測定値の変化すべてを運動療法の効果として断定することはできません。
それでも、一つの運動プログラムに対する反応が、身体機能の項目ごとにも個人ごとにも異なるという点は、臨床で考える価値があります。
まとめ
高齢者に対する12か月間の運動プログラムでは、筋力や歩行能力に改善が認められた一方、その程度には大きな個人差がありました。
今回の研究からリハビリ専門職が考えたいのは、
「運動療法の効果があるか、ないか」ではなく、「何がどの程度変化し、生活にどう結びついたか」
という視点です。
運動内容を固定するだけではなく、評価・実施・再評価・調整を繰り返すことが、個別性のあるリハビリテーションにつながります。
参考文献
Hämäläinen O, Sipilä S, Tirkkonen A, et al.
Individual variability and predictors of responsiveness in physical outcomes following multicomponent physical training in older adults.
European Journal of Applied Physiology. Published October 24, 2026.
DOI: 10.1007/s00421-026-06475-4
※本記事は公開された研究に基づく専門職向けの情報提供を目的としています。運動療法の効果には個人差があり、運動の内容や負荷量は身体機能、疾患、合併症などを踏まえて個別に判断する必要があります。

