リハビリテーションの現場でも、AIによる動作分析や評価支援、記録業務の効率化などが注目されています。
しかし、患者さんはAIを使ったリハビリをどのように受け止めているのでしょうか。
2026年10月31日、医学誌 Physical Therapy に、AIの使用が理学療法に対する信頼や安心感に与える影響を調べた研究が掲載されました。
今回は、研究結果とリハビリ専門職がAIを活用する際に考えたいポイントを解説します。
710人を対象にAIへの印象を調査
オーストラリアの成人710人を対象に、4種類の仮想的な理学療法場面を提示し、それぞれの印象を比較しました。
| 診療方法 | AIの使用 |
|---|---|
| 対面リハビリ | なし |
| 対面リハビリ | あり |
| 遠隔リハビリ | なし |
| 遠隔リハビリ | あり |
参加者には、療法士への信頼、専門性、安全性、親しみやすさ、今後の利用意向などを7段階で評価してもらいました。
重要なのは、実際の患者がリハビリを受けた研究ではないことです。
AIの使用について説明された場合、どのような印象を持つかを調べています。
AIを使用すると信頼や安心感の評価が低下

研究では、対面リハビリでAIを使用すると説明された場合、AIを使用しない場合より複数の評価項目が低下しました。
具体的には、7段階評価で次のような差が認められました。
| 評価項目 | AI使用による点数の差 |
|---|---|
| 安全性への評価 | −0.8点 |
| 療法士への信頼 | −0.5点 |
| 専門性への評価 | −0.4点 |
| 親しみやすさ | −0.3点 |
| 利用意向 | −0.8点 |
※統計モデルによる推定差です。割合や患者数の減少を意味するものではありません。
また、AIを使用しない条件でも、遠隔リハビリは対面リハビリより低く評価される傾向がありました。
一方、遠隔リハビリではAI使用による評価低下が一部の項目で小さくなる結果も認められています。
つまり、AIの使用に対する印象は、リハビリの提供方法によっても異なる可能性があります。
なぜAIを使うと信頼が下がるのか?
今回の研究では、信頼感などの評価が低下したことは示されていますが、その理由がすべて明らかになったわけではありません。
ただし、臨床では次のような不安が生じる可能性があります。
- AIが間違った判断をしないか
- 療法士が十分に確認しているのか
- 患者の状態に合わせた対応ができるのか
- 個人情報は適切に管理されるのか
患者さんにとって重要なのは、新しい技術を使用していること自体ではなく、安全に、そして自分の状態に合わせて対応してもらえるかという点かもしれません。
リハ職がAIを導入するときに考えたい3つのポイント

① AIが何をしているのか説明する
例えば、動作分析にAIを使用する場合、
「AIで動作を分析します」
という説明だけでは、患者さんが具体的な使用目的を理解できない可能性があります。
「歩行中の動きを数値で確認するために使用します。分析結果は療法士が確認します」
と説明すれば、AIの役割を具体的に伝えられます。
② 最終的な判断は専門職が行う
AIによって関節角度や歩行の特徴を分析できたとしても、それだけで介入方針が決まるわけではありません。
疼痛、疲労、既往歴、患者さんの希望、生活環境など、AIでは十分に捉えられない情報もあります。
AIは評価や判断を補助する道具であり、専門職の臨床判断をそのまま置き換えるものではありません。
③ 患者の希望と個人情報に配慮する
AIによる動画分析やデータ処理では、患者情報の取り扱いにも注意が必要です。
使用するシステムの安全性、情報の保存先、外部送信の有無、院内の運用ルールなどを確認します。
また、患者さんがAIの使用に不安を感じている場合には、その理由を確認し、可能な範囲で対応方法を検討することも重要です。
AIを導入しない方がよいという研究ではない
今回の研究結果を「リハビリにAIを導入すると患者との信頼関係が悪化する」と解釈するのは適切ではありません。
研究には、次のような限界があります。
- オーストラリアの一般成人を対象としている
- 仮想的な診療場面を評価している
- 実際の治療効果や患者満足度は検証していない
- AIの使用目的や説明方法によって印象が変わる可能性がある
そのため、日本のリハビリテーション現場でも同じ結果になるとは限りません。
また、説明方法を工夫すれば信頼が改善するかどうかも、今回の研究では検証されていません。
まとめ
今回の研究では、AIを使用すると説明された理学療法に対して、患者側の信頼、安全性、利用意向などの評価が低下する傾向が認められました。
今後、リハビリテーションでAIを活用する機会は増えていくと考えられます。
その際に重要なのは、AIによって何ができるかだけでなく、患者さんが安心して利用できる仕組みを整えることです。
AIの役割を明確にし、専門職が責任を持って判断すること。
技術の導入と患者との信頼関係を、両立させていく視点が求められます。
参考文献・参考資料
1.今回の原著論文
Ross MH, Simmich J, Berg D, Russell T.
Impact of Artificial Intelligence or Telerehabilitation on Consumer Ratings in Physical Therapy: An Online Randomized Experiment.
Physical Therapy. 2026. Published October 31, 2026.
https://doi.org/10.1093/ptj/pzag122
2.WHO:医療AIの倫理とガバナンス
World Health Organization.
Ethics and governance of artificial intelligence for health: WHO guidance. 2021.
https://www.who.int/publications/i/item/9789240029200
※本記事は公開された研究および公的資料に基づき、リハビリテーション専門職向けに情報を整理したものです。AIの安全性や有効性は使用するシステム、対象患者、使用目的によって異なります。医療現場への導入にあたっては、所属施設の規定や関連法令を確認し、適切な管理・運用を行う必要があります。

